流域圏環境再生センター

社会貢献

中海の環境再生

 中海湖底には3,000万立米という膨大な容積の浚渫窪地が存在し(図1),富栄養化によって増殖した植物プランクトンが枯死・沈降する.窪地はこれらの有機物粒子を集めるポケットとして働いている.窪地には比重の重い海水が滞留しているため,硫酸還元という嫌気分解が進み,猛毒な硫化水素が発生している.発生した硫化水素は,湖水の流動でしばしば周辺にまで影響する.
 そもそも中海の底層は,温暖期には広い範囲で貧酸素状態であり,硫化水素の発生は生物相の崩壊をさらに手伝っている.これによって,中海で以前獲れていたウナギやサルボウ(赤貝)はほとんど獲れなくなっている(図2).
 行政による陸域からの流入負荷の削減の努力がなされ,水質はある程度の改善傾向が見られるが,劣化した底質は簡単には改善されない.
 膨大な窪地を埋め戻すには,多量の材料の供給が必要である.天然砂が良いかもしれないが,山や島などから天然砂を調達する場合,調達先の環境破壊につながる.そこで,中海自然再生協議会(リンク先参照)では,硫化水素を効率良く吸着・酸化する石炭灰造粒物(図3)を敷設することを決議した.
 石炭灰造粒物は,すでにわれわれの先行研究において,硫化水素を良く抑制することが確認されており,すでに環境省の「環境技術実証事業(ETV)」や島根県の「しまねグリーン製品」などにも認定されている環境修復用リサイクル材料である.硫化水素の吸着という機能面では,明らかに天然砂以上の材料である.
 しかしながら,3,000万立米という膨大な窪地を一気に埋め戻すことは不可能であり,我々は島根大および中国電力と共同で,小規模の独立した窪地の埋め戻しを2012年冬から始めた.
 水質や底質のモニタリングを行って硫化水素が低減されることを確認するとともに,底泥-直上水中の酸化還元反応を網羅する複雑な数値モデル(図4)を適用することで,中海全体の環境修復を一早く達成するために,石炭灰造粒物がどれだけ必要となるのか,あるいは最適な施工方法はどうなのかといった検討を進めている.
 中海の環境が良好になり,生物相が回復し,水産業が復活することが我々の最大の願いである.

中海の環境再生
図2.中海の漁獲量の推移.
島根県農林水産部水産課HP
中海の環境再生

図4.底泥-直上水間の複雑な酸化還元反応を解析する数値モデルのフレームワーク

東広島:山と海の連携事業

 手入れがなされないために荒れた森は多い.間伐をすることで,森林内に太陽の光が届き,下草が生え,森の木も健全に育つ.間伐した木材は細く,家具など付加価値の高い製品の加工には向かないため,利用価値が低い.
 そこで,これらを井桁に組んで海に沈めて魚礁とすることで,藻が生えたり,餌生物が増えたりすることで,漁獲の増加につながると考えられる(図1) .
 つまり,森のメンテナンスと海の漁獲の増加という一石二鳥を狙った事業を,東広島市,広島県環境保健協会との共同で2015年より行っている.
 漁獲量の増加という点では,生態系モデルを構築して評価する.また,森を含めた費用便益,あるいは生態系が我々人類に与えてくれるサービス(生態系サービス)の向上という観点では,別途見積もり方法を模索中である.この点,見積もり方法,評価方法について得意とする研究者の参加を募集中である.
 この取り組みが拡大すれば,地域の雇用を生み,地域の活性化につながることが期待される.

東広島:山と海の連携事業

図1.森の環境維持のために間伐された材料を漁礁として利用し,漁獲量の増加を狙う.
これにともなう雇用の増進などにより,地域の活性化を目指す.

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